〜EU包装規制8月施行・全面制限の足音、現場でできる代替と除去〜
◆はじめに
はじめまして、あるいはいつもお読みいただき、ありがとうございます。株式会社DCTA代表取締役の畠山達彦と申します。私はこれまで、大手ケミカルHDの事業会社で機能性樹脂の素材開発から工場設計、生産管理まで一通りを担当し、30カ国以上の現場を行き来してきました。2014年11月に独立してからは、製造業の環境規制対応や、IoT・AI・デジタルツインを使ったスマートファクトリーづくり、アジアでの資源循環ビジネスの立ち上げを、現場の隣で手を動かしながらお手伝いしています。
そんな私のところに、ここ一年ほどでぐっと増えたご相談があります。「うちの製品、PFASは大丈夫でしょうか」「規制が来ると聞いたが、何から手を付ければいいのか」というお声です。半導体の部材をつくる会社さんから、食品の包装、繊維、塗料、シール部品、医療機器まで、業種は本当にさまざまです。共通しているのは、「便利に使ってきた素材が、ある日突然使えなくなるのではないか」という、静かな不安だと感じています。
この連載では、その不安を、過度な悲観でも安易な楽観でもなく、現場で動ける実践論に落とし込んでお届けしたいと思っています。全12回、Prologueと10話、そしてEpilogueという構成です。今日はその入口として、「なぜ今、世界が一斉にPFASから手を引こうとしているのか」「2026年という年がなぜ分水嶺なのか」「環境部門だけの話ではなく、ソフトウェア開発や営業の現場にも関わる理由」を、ざっくりと地図にしてご案内できればと思います。
なお、本連載で扱う規制の数値や適用範囲、スケジュールは2026年時点で確認できた一次情報をもとにしていますが、PFAS関連の制度は今まさに動いている最中です。実際の適用判断や法令解釈にあたっては、必ず最新の公的情報や専門家にご確認いただくようお願いいたします。私自身も弁護士や行政の専門家ではありませんので、断定は避け、現場の感覚としてお伝えする点をご了承ください。
なぜ、素材をつくってきた私がこの連載を書くのか
少しだけ自己紹介を続けさせてください。私は大手ケミカルHDの事業会社で、長く機能性樹脂の仕事に携わってきました。新しい材料を研究室で生み出すところから、それを量産するための工場をどう設計するか、できあがったラインをどう安定して回すか。素材の上流から下流まで、ひととおりの現場に身を置いてきたつもりです。仕事の都合で30カ国以上の工場や顧客を回り、国によって規制の温度感がこれほど違うのかと、何度も驚かされました。
独立して株式会社DCTAを立ち上げてからは、その経験を逆向きに使っています。つまり、規制という「外からの圧力」を、現場の言葉に翻訳して、無理のない打ち手に落とし込むお手伝いです。たとえばインドネシアでは、資源循環の実証プロジェクトに関わり、現地の暑さや停電、人の入れ替わりといった「教科書に載っていない現実」の中で、どうすれば仕組みが回るのかを一緒に悩んできました。きれいな理屈だけでは現場は動かない、ということを、嫌というほど学んだ気がします。
PFASの話も、まったく同じだと思っています。「規制が来ます、だから止めましょう」では、現場は動けません。代わりがあるのか、コストは合うのか、お客さまに説明できるのか。その一つひとつに答えを用意して、はじめて一歩が踏み出せます。だから私は、規制の解説だけでなく、「で、現場は何をどうすればいいのか」までを、できるだけ具体的にお伝えしたいと思っています。この連載を、机上の解説ではなく、現場の相談相手として読んでいただけたら嬉しいです。
その便利さは、どこから来て、どこへ行くのか
PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物の総称)は、炭素とフッ素ががっちり結びついた、とても強い結合を骨格に持つ物質群です。この結合の強さが、撥水(水をはじく)、撥油(油をはじく)、耐熱(熱に強い)、耐薬品(薬品に侵されにくい)という、製造業がのどから手が出るほど欲しい性能を一度に与えてくれます。フライパンのこびりつき防止、雨具やアウトドアウェアの撥水、半導体製造で使う薬液や配管、自動車のシール、医療チューブ、食品の包み紙の耐油コートまで、気づけば私たちの暮らしと産業のすみずみに行き渡っています。
私自身、素材を開発する立場にいた頃、フッ素系の材料は「困ったときの最後の切り札」のような存在でした。他の材料では届かない性能が、フッ素を少し使うだけでぴたりと決まる。現場では本当にありがたい存在で、だからこそ世界中であれほど広く使われてきたのだと思います。
ところが、その「強い結合」には裏の顔があります。あまりに丈夫で安定しているために、自然界でほとんど分解されないのです。一度環境に出ると、川や地下水、土壌、そして私たちの体の中にまで、長い時間とどまり続けます。だから「Forever Chemicals(永遠の化学物質)」と呼ばれるようになりました。便利さの源泉だった性質が、そのまま「後始末の難しさ」になってしまった。ここがPFAS問題の根っこだと、私は受け止めています。
・ 便利さの正体は「撥水・撥油・耐熱・耐薬品」の四拍子。代わりがききにくい性能の組み合わせです。
・ その正体である強い炭素フッ素結合が、同時に「分解されにくさ」という宿命を生んでいます。
・ PFASは一つの物質ではなく「一族」です。OECDが2018年に整理した時点でおよそ4,700種、より広い定義では一万を超えるとも言われ、欧州の全面制限提案では約14,000物質が対象とされています。この「数の多さ」が、後で効いてきます。
PFASの種類の数え方は定義によって幅があります。詳しくは第1話「PFASとは何か」で整理します。
もう一つ、現場の感覚としてお伝えしておきたいことがあります。それは「PFASの本当の難しさは、性能が一つではなく、いくつもの性能が同時に成り立っている点にある」ということです。たとえば「水をはじくだけ」なら、代わりの素材はわりと見つかります。ところが、水も油もはじき、しかも熱に強く、薬品にも負けず、薄い膜でもその性能が長持ちする、という「合わせ技」になると、途端に置き換えが難しくなります。私が現場で「フッ素は最後の切り札」と感じていたのは、まさにこの合わせ技の心地よさがあったからでした。
ですから、後の回でお話しする「代替」も、一律に「置き換えられる・られない」と語れるものではありません。求めている性能のうち、どこまでが本当に必要で、どこからが念のための上乗せなのか。それを一つずつほぐしていくと、「実はここは非フッ素でも足りる」という箇所が見えてくることが少なくありません。逆に、「ここだけはどうしても代えられない」という核心も、はっきりしてきます。この見極めこそ、素材を長くいじってきた人間の腕の見せどころだと思っています。
なぜ「2026年」が分水嶺なのか
ここ数年、PFASをめぐる規制の話は何度も聞こえてきました。それでも多くの現場では、「まだ先の話だろう」という空気があったように思います。私が「2026年は少し違います」とお伝えしているのは、抽象的な方針ではなく、具体的な期日がいくつも重なってくる年だからです。順番に見ていきます。
一つ目は、欧州連合(EU)の包装・包装廃棄物規則(PPWR)です。2025年2月に発効したこの規則のもとで、2026年8月12日から、食品に触れる包装材のPFAS含有が一定の基準を超えると、EU市場に出せなくなります。しかも、その日より前に製造した在庫であっても、その日以降に市場へ初めて出すものは対象になります。いわゆる経過措置(在庫の積み残しを認める猶予)が用意されていない、なかなか厳しい立て付けです。
【序章図表ファイル
P1ページ「主要データ・出典一覧」参照】
基準の中身は「ゼロPFAS」ではなく、数値で線が引かれています。個別の非ポリマーPFASでおよそ25 ppb、合計でおよそ250 ppb、全フッ素としておよそ50 ppmという三つのしきい値が示されています。つまり「測ってみないと分からない」世界に入るということです。この包装規制の詳しい中身は、第3話でじっくり扱います。
二つ目は、日本国内の動きです。これまでPFOS・PFOA(PFASの代表格の二物質)は、水道水について合算50 ng/Lという「暫定目標値」で管理されてきました。これが、2025年6月30日に公布された省令により、2026年4月1日から正式な「水質基準項目」へと格上げされました。基準値そのものは合算50 ng/Lのままですが、水道事業者などにはおおむね3か月に1回以上の検査と、基準を守る義務が新たに課されます。「努力義務」から「義務」へ、という重みの違いです。日本の現在地は、第5話で改めて整理します。
三つ目は、EUのもう一段大きな動き、REACH規則のもとでのPFAS全面制限の提案です。これはオランダ・ドイツ・デンマーク・ノルウェー・スウェーデンの5カ国が2023年1月に提出したもので、約14,000物質を視野に入れた、化学規制としては前例のない広さの提案です。2026年3月にリスク評価委員会(RAC)が最終意見を採択し、社会経済分析委員会(SEAC)が意見の草案をまとめました。SEACの最終意見は2026年末に出る見込みで、その後に欧州委員会へ渡され、加盟国による審議と採決へ進みます。早ければ2028年から2029年ごろに制限が現実のものになる、という段取りが視野に入ってきました。
【PFAS連載_序章_図表ファイル.pdf
P2ページ「“規制が現実になる年” 2026年タイムライン」参照】
この全面制限の議論では、これまで個別に語られてこなかった分野も対象に加わってきました。印刷、シーリング、機械、テクニカルテキスタイル(産業用繊維)といった、まさに「ものづくりの裏方」を支える用途です。「自社は消費財ではないから関係ない」と思っていた会社さんほど、改めて点検が必要になるかもしれません。EUの全体像も第3話で扱います。
そして四つ目、米国です。米国環境保護庁(EPA)は2024年に飲料水中の6種類のPFASに上限値を定めましたが、2025年5月に方針を一部見直しました。PFOAとPFOSについては上限値を維持しつつ遵守期限を2031年へ延ばし、残りの物質については規制を撤回して再検討する、という整理です。規制が「強まる方向」と「緩む方向」が同時に動いているのが米国の特徴で、ここは輸出実務に直結します。第4話で詳しく見ていきます。
「市場に出せなくなる」という言い方は、少し抽象的に聞こえるかもしれません。現場の言葉に直すと、こういうことです。これまで普通に出荷していた包装材が、ある日を境に、書類(適合の証明)と検査結果がそろっていなければ取引先に納められなくなる、ということです。検査には時間がかかります。試験所の予約が混み合えば、依頼してから結果が出るまで数週間かかることも珍しくありません。つまり「期日の直前に慌てて測る」では間に合わない可能性がある、というのが、私がいちばんお伝えしたい現場のリアルです。早めに動くことそのものが、もっとも確実なリスク対策になります。
こうして並べてみると、2026年は「方針が語られる年」ではなく「期日が来る年」だとお分かりいただけると思います。だからこそ、今この時期に手を動かしておくことの価値が、ぐっと高まっていると感じています。
【PFAS連載_序章_図表ファイル.pdf
P3ページ「PFAS規制の三層構造」参照】
ところで、そもそもなぜ世界がここまで一斉に動き出したのでしょうか。背景には、大きく三つの圧力があると私は整理しています。
一つは健康への懸念
もう一つは環境にいつまでも残り続けるという残留性
そして三つ目が、海外で表面化している巨額の賠償・訴訟リスク
すでに数十億ドル規模ともいわれる和解が報じられており、企業にとっては「規制が来るから」だけでなく「使い続けること自体が経営リスクになる」という意識が広がってきました。この三つの圧力がどう積み重なって規制を押し上げてきたのかは、第2話で冷静に読み解いていきます。
これは「環境部門だけの話」ではありません
ここで一つ、強くお伝えしたいことがあります。PFAS対応は、環境やサステナビリティの担当者だけが向き合う話ではありません。むしろ、情報システムやソフトウェア開発、そして営業の現場にこそ、活躍の場が広がるテーマだと考えています。
理由は、PFAS対応の正体が「化学」であると同時に「データ」の問題だからです。先ほど触れたとおり、PFASは数千から一万を超える化合物の集まりです。これだけ多いと、自社の製品や部材のどこに、どの物質が、どれくらい含まれているのかを、人手の表計算で追いかけるのはとても現実的ではありません。さらに厄介なのは、含有のリスクが、直接取引する一次サプライヤーの先、二次・三次・その先(nth-tier)に潜んでいることです。直接の仕入れ先までは見えても、その奥が見えない。ここが多くの現場でつまずくところです。
だからこそ、テクノロジーの出番になります。具体的には、次のような技術が組み合わさって、PFAS対応を支え始めています。
・ AI(人工知能)による物質マッチング。サプライヤーから集めた成分情報を、各国の規制が定めるPFASの定義と突き合わせ、「これは該当する/しない」を高速に判定します。一万を超える化合物を相手にすると、人だけでは追いつきません。
・ IoT・デジタルツインによる工程の見える化。どの工程で、どの薬剤が、どれだけ使われているかを現場のデータとしてつかめれば、含有の経路や排出のリスクを早い段階で見つけられます。
・ ブロックチェーンによる、改ざんできないトレーサビリティ。原材料の出どころから加工、流通までの記録を、後から書き換えられない形で残せます。欧州が進めるデジタル製品パスポート(DPP)の議論とも地続きで、「この製品は確かにPFASフリーです」と胸を張って示すための土台になります。
・ 規制情報そのものを追いかけるインテリジェンス。世界中で日々動く規制を早期につかみ、関係する部署へ知らせる仕組みです。
つまり、PFAS対応は「新しい業務システムをつくるテーマ」でもあるのです。サプライヤーへの調査票を配って集める仕組み、部品表(BOM)と成分データをひもづける仕組み、しきい値を自動で計算して引っかかりを知らせる仕組み。これらは、ソフトウェア開発の会社さんや、それを売る営業の会社さんにとって、まさに新しい価値を届けられる領域だと感じています。
【PFAS連載_序章_図表ファイル.pdf
P5ページ「テクノロジーで支えるPFAS対応」参照】
私たち株式会社DCTAは、素材と製造現場の言葉と、ソフトウェアやデータの言葉、その両方を行き来しながらお手伝いできる点を、ささやかな持ち味だと思っています。「環境の話だから自分には関係ない」と感じておられた方ほど、この連載をきっかけに、自社の強みの活かしどころを見つけていただけたら嬉しいです。
少しイメージがわくように、ある中堅メーカーさんの動き方を、典型的な流れとして描いてみます。まず、取引先から「あなたの製品はPFASフリーですか」という問い合わせが届きます。担当者は、何百という部品それぞれについて、サプライヤーへ成分の問い合わせを出さなければなりません。ここで、紙やメールの往復に頼っていると、集計だけで何週間も溶けてしまいます。そこで、サプライヤーが直接入力できる窓口を用意し、集まった成分情報をAIが各国のPFAS定義と突き合わせて「該当の疑いあり」を自動で色分けする。引っかかった部品だけを人が精査し、代替や追加検査の判断に集中する。確認が済んだ製品には、原材料からの記録を改ざんできない形でひもづけ、取引先からの問い合わせにはその記録を示して即答する。こうした一連の流れを、ソフトウェアとデータでなめらかに回せるかどうかが、対応スピードの差になっていきます。
この流れのどこを見ても、化学の知識だけでも、ITの知識だけでも完結しません。「どの物質を、どの規制と、どう突き合わせるか」という設計には化学の目が要りますし、「それをどう仕組みにして現場で回すか」にはソフトウェアと営業の力が要ります。だからこそ、PFAS対応は分野をまたいだチームで取り組むテーマであり、ソフトウェアの会社さんや営業の会社さんにとっても、れっきとした主役級の出番がある領域なのだと、私は考えています。
現場でよくいただく、三つの誤解
ご相談を受けていると、いくつか共通する「思い込み」に出会います。どれも自然な感覚なのですが、後でつまずきやすいところなので、入口の段階でほぐしておきたいと思います。
・ 「PFASフリーと書いてある材料を使えば安心」という誤解。
表示はあくまで出発点です。本当に大事なのは、その材料の先、つまり接着剤や添加剤、表面処理といった「脇役」にPFASが潜んでいないかまで確かめられているかどうかです。一か所だけ見て安心してしまうのが、いちばん危ういパターンだと感じています。
・ 「うちは企業向け(BtoB)だから消費者規制は関係ない」という誤解。
むしろ逆のことが多いです。最終製品をつくる会社さんが規制対応を迫られると、その求めは部材を納める会社さんへ、さらにその奥のサプライヤーへと、川上に向かって次々と伝わっていきます。気づいたときには「取引先から含有調査票が届いた」という形で、自社のところに話が回ってきます。
・ 「測ればすぐに分かる」という誤解。
PFASは種類が非常に多く、何をどう測るかで結果の意味が変わります。まず全体のフッ素量で当たりを付け、必要に応じて個別物質を詳しく測る、という段取りが現実的です。検査には費用も時間もかかりますから、やみくもに測るのではなく、用途の棚卸しで「疑わしい場所」を絞ってから測るほうが、結局は早くて安く済みます。
これらの誤解は、裏を返せば「どこから手を付ければよいか」のヒントでもあります。次の章では、その手順を四つのステップに整理してみます。
現場でできること「測る・探す・替える・除く」
では、いざ動くとなったとき、現場では何から手を付ければよいのでしょうか。私はいつも、大きく四つのステップでお話ししています。難しい言葉を使わずに言えば、「測る・探す・替える・除く」です。
・ 測る。まずは現状把握です。
自社の製品や排水に、PFASがどの程度含まれているのかを分析で確かめます。日本では2026年4月から水道水の検査義務も始まり、「測る」入口の重要性がいっそう増しています。第5話で掘り下げます。
・ 探す。次に、自社のどこにPFASが潜んでいるかを用途別に棚卸しします。
撥水・離型・コーティング・シール・半導体・医療・繊維など、用途の地図を描くと、疑うべき場所が見えてきます。第6話で用途別の地図をお見せします。
・ 替える。見つかった箇所を、できる範囲で代替素材に置き換えます。
ここは正直、得意・不得意がはっきりしています。たとえば衣料の撥水のように非フッ素の素材で置き換えが進んでいる分野もあれば、撥油や過酷な産業用途のように、まだ簡単には替えられない分野もあります。過度な期待も悲観もせず、一つずつ見極めることが大事だと感じています。第7話で代替の現実を扱います。
・ 除く。製品ではなく、すでに環境や排水に出てしまったPFASを取り除く技術もあります。
吸着材や吸着繊維による回収、分解、水処理などです。技術としては確かに前進していますが、実用規模で動かそうとすると、コストとスケール(処理量)の壁が立ちはだかります。第8話で、技術と費用の両面から正直にお話しします。
この四つは、どれか一つで終わる話ではありません。測って、探して、替えて、除く。行ったり来たりしながら、自社にとって無理のない順番で組み立てていくのが現実的だと思います。
【PFAS連載_序章_図表ファイル.pdf
P6ページ「現場の打ち手マップ:測る・探す・替える・除く」参照】
大切なのは、最初から完璧を目指さないことだと感じています。すべての製品を一度に調べ上げ、すべてを代替しようとすると、たいてい途中で息切れしてしまいます。それよりも、出荷量が多い製品や、規制の対象になりやすい用途から順に手を付け、優先順位をつけて進めるほうが、結果的に早く形になります。私がお手伝いするときも、
まずは「いちばん効く一手はどこか」を一緒に探すところから始めることが多いです。小さく始めて、手応えを確かめながら広げていく。地味ですが、これがいちばん確実な進め方だと、現場で繰り返し実感してきました。
本連載の歩き方(全12回の地図)
最後に、これから一緒にたどっていく道のりをご案内します。各話のねらいを一言ずつ添えました。気になる回から読んでいただいても構いませんが、できれば順番にお付き合いいただけると、伏線がつながって読みやすいと思います。
【PFAS連載_序章_図表ファイル.pdf
P4ページ「本連載の歩き方(全12回マップ)」参照】
・ Prologue(本稿):便利さの後始末が、いよいよ現場に届き始めた「今」を地図にします。
・ 第1話:PFASとは何か。なぜ「ひとつの物質」ではなく「一族」なのか。広がりと宿命を整理します。
・ 第2話:なぜ今、世界が一斉に動くのか。健康・環境残留・訴訟という三つの圧力を冷静に読み解きます。
・ 第3話:EUの本気。PPWRの2026年8月施行と、REACH全面制限提案の現在地を正確に整理します。
・ 第4話:米国の動き。飲料水規制と州法の乱立、そして「測ってみたら」の衝撃。輸出実務への影響を見ます。
・ 第5話:日本の現在地。暫定から基準へ、そして「測定」という入口を現場目線で語ります。
・ 第6話:どこに潜むか。撥水・離型・半導体・医療・繊維という用途別の地図を描きます。
・ 第7話:代替の現実。「フッ素フリー」は本当に置き換えられるのか。到達点と限界を見ます。
・ 第8話:除去技術の最前線。吸着・分解・水処理のコストとスケールの壁を語ります。
・ 第9話:中小製造業の自社診断。サプライチェーンの遡及と含有調査の手順を示します。
・ 第10話:規制を「コスト」から「設計力」へ。先回りする企業の競争優位を整理します。
・ Epilogue:便利さの後始末を、ものづくりの誇りに変える。化学に長く関わってきた立場から問いかけます。
「便利さの後始末を、ものづくりの誇りに変える」
私は、フッ素という素材の便利さを、現場でさんざん享受してきた側の人間です。だからこそ、PFASを一方的に「悪者」と決めつけて語ることには、少しためらいがあります。あの性能があったから実現できた製品や安全も、確かにたくさんあったからです。
それでも、つくる責任があるならば、つかった後の責任もあるのだと思います。便利さの後始末を、面倒なコストとして嫌々こなすのか、それとも「うちはここまできちんと向き合っています」という設計力や信頼に変えていくのか。その分かれ道に、製造業はいま立っているのだと感じています。早く、誠実に動いた会社ほど、これからお客さまに選ばれていく。私はそう見ています。
規制は、遠くの誰かが勝手に決めたルールではなく、私たちのものづくりの足元を映す鏡のようなものだと思います。怖がりすぎず、軽く見すぎず、現場の言葉で一歩ずつ。この連載が、その一歩のお供になれば幸いです。
もし読み進めるなかで、「うちの場合はどうだろう」と具体的に気になることが出てきたら、それはとてもよい兆候だと思います。PFAS対応は、自社の製品や工程を改めて見つめ直す、またとない機会でもあります。素材の置き換えに迷ったとき、含有調査の進め方に悩んだとき、あるいは仕組みづくりに人手が足りないと感じたとき。そんなときに、素材と現場とソフトウェアの間をつなぐ相談相手として、株式会社DCTAのような存在を思い出していただけたら、書き手としてこれ以上の喜びはありません。
次回の第1話では、そもそもPFASとは何か、なぜ「一つの物質」ではなく「一族」と呼ばれるのか、その正体から一緒に紐解いていきます。一族の広がりを知ることは、自社のどこを疑うべきかを見極める第一歩にもなります。どうぞ気軽な気持ちで、お付き合いください。
◆引用文献・参考資料
1. 欧州委員会 環境総局「Packaging waste」(参照:https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/packaging-waste_en)
2. Regulation (EU) 2025/40(包装・包装廃棄物規則、PPWR)関連解説(PFAS制限のしきい値・2026年8月12日適用・経過措置なし)(参照:https://www.coolset.com/academy/ppwr-compliance-deadlines-explained-what-applies-from-august-2026-and-what-comes-later)
3. ECHA「SEAC agrees its draft opinion on PFAS restriction proposal」(RAC最終意見2026年3月2日、SEAC草案、最終意見は2026年末予定)(参照:https://www.echa.europa.eu/-/echa-s-socio-economic-analysis-committee-agrees-its-draft-opinion-on-pfas-restriction-proposal)
4. ECHA「ECHA to launch consultation on draft SEAC PFAS opinion」(5カ国提案・約14,000物質・2026年5月25日まで意見募集)(参照:https://www.echa.europa.eu/-/echa-to-launch-consultation-on-draft-seac-pfas-opinion)
5. US EPA「EPA Announces It Will Keep Maximum Contaminant Levels for PFOA, PFOS」(2031年への期限延長等)(参照:https://www.epa.gov/newsreleases/epa-announces-it-will-keep-maximum-contaminant-levels-pfoa-pfos)
6. 環境省「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」等(PFOS・PFOAの水質基準化、2026年4月1日施行)(参照:https://www.env.go.jp/press/press_00075.html)
7. 環境省 PFASハンドブック(2025年12月更新、暫定目標値50 ng/Lの経緯等)(参照:https://www.env.go.jp/content/000357917.pdf)
8. 一般財団法人 東京顕微鏡院「有機フッ素化合物(PFAS)に関する水道水質基準の改正について」(2024年度水質測定の超過地点・最大値)(参照:https://www.kenko-kenbi.or.jp/columns/water/18646/)
9. Innovation News Network「Cracking the PFAS code: AI and FMDs illuminate the hidden supply chain」(nth-tier可視化・FMD・訴訟規模)(参照:https://www.innovationnewsnetwork.com/cracking-the-pfas-code-ai-and-fmds-illuminate-the-hidden-supply-chain/64586/)
10. 繊研新聞「PFAS規制が世界で加速 撥水素材は非フッ素に、代替困難な産業用途は注視」(代替の進展と限界)(参照:https://senken.co.jp/posts/pfas-240416)
(注)本稿の数値・期日・適用範囲は2026年時点で確認できた公的情報および各種解説をもとにしています。制度は継続的に更新されるため、実務にあたっては必ず最新の一次情報および専門家の確認をお願いいたします。
◆著者プロフィール
畠山 達彦 株式会社DCTA 代表取締役
大手ケミカルHDの事業会社にて機能性樹脂事業の責任者を務め、素材開発・加工技術・工場設計・生産管理に至るバリューチェーン全体の意思決定を担う。30カ国以上の事業運営を統括した後、2014年11月に独立し株式会社DCTAを設立。製造業の環境規制対応(PFAS・EU CRA等)、IoT/AI/デジタルツインを活用したスマートファクトリー構築、アジアでの資源循環ビジネス開発を中心としたコンサルティングを展開。湘南・横浜を拠点に、東南アジア・中東・インド・欧州・米国で活動中。NewsPicks EXPERT AWARD ベストフラッシュオピニオン賞2024/2025年連続受賞。
会社URL https://www.dctainc.com/
◆キーワード
#PFAS #永遠の化学物質 #PFAS規制 #PPWR #REACH #フッ素フリー #脱PFAS #製造業 #サプライチェーン #環境規制 #カーボンニュートラル #デジタル製品パスポート #トレーサビリティ #スマートファクトリー #DCTA