〜不安の物語ではなく、希望と打ち手の物語として。連載を、前を向いて締めくくります〜
◆あの問いを、覚えていますか
この連載は、一つの問いから始まりました。プロローグで、私はこうお尋ねしました。『あなたのモーターは、あと何個つくれますか』。
あのときは、少しひやりとする問いだったかもしれません。レアアースが手に入らなくなれば、モーターはつくれなくなる。日本のものづくりは、見えない急所を握られている。そんな、足元が崩れるような不安を、感じた方もいたと思います。
プロローグであの問いを投げかけたのには、理由がありました。レアアースという、ふだん意識することのない素材が、実は私たちのものづくりの根っこを支えている。そのことに、まず気づいていただきたかったのです。気づくことは、不安の始まりではなく、備えの始まりです。あの問いは、脅かすためではなく、一緒に考える旅への、招待状のつもりでした。
レアアースの話は、ともすれば、専門家や政府だけの、遠い世界の話に聞こえます。けれど本当は、ものづくりに関わるすべての人の、足元の話です。だからこそ、できるだけかみくだいて、現場の言葉でお伝えしようと努めてきました。最終回も、その気持ちは変わりません。
あれから、私たちは10話にわたって、長い旅をしてきました。レアアースとは何かという素朴な問いから始まり、その正体、もろさ、そして数々の打ち手を、一つずつ見てきました。そしていま、最終回。もう一度、あの問いの前に、ご一緒に立ってみたいと思います。
ですが、その前に、どうしても先にお伝えしたいことがあります。この連載は、不安を煽るための物語では、ありませんでした。むしろ、その正反対です。これは、希望と、打ち手の物語だったのです。最終回は、そのことを、改めて、はっきりとお伝えする回にしたいと思います。どうか、肩の力を抜いて、最後までお付き合いください。
最終回でお伝えしたいことは、大きく三つです。これまでの旅を振り返ること。この連載が不安の物語ではなかったと、改めて確かめること。そして、あの問いに、もう一度、いまの私たちなりの答えを出すこと。どれも、前を向くための時間です。
10話の旅を、振り返る
まず、ここまでの道のりを、地図をたどるように振り返ってみましょう。一話ずつ思い出すと、私たちがずいぶん遠くまで歩いてきたことが、分かると思います。
思えば、第1話を書いたときは、まさかこんなに長い旅になるとは、私自身も思っていませんでした。レアアースという一つの素材を入り口に、技術の話、地政学の話、海底の話、そして一社一社の経営の話まで。たどっていくと、現代の産業と社会の、驚くほど多くのことが、この小さな素材につながっていました。それだけレアアースは、現代を映す『鏡』のような存在だったのだと思います。
【エピローグ_図表
P1ページ「連載10話の歩み」参照】
前半は、レアアースの『正体』と『もろさ』を見つめる旅でした。
・ 第1話では、レアアースが『現代産業の隠し味』であり、希少だから難しいのではなく『分けにくい』から難しいのだと知りました。
・ 第2話では、中国一極の本当の急所が、採掘ではなく『精製・分離』にあることを見ました。
・ 第3話では、2026年の規制が『許可制・軍民両用・域外適用』という三重の網であることを整理しました。
・ 第4話では、もし止まったら何が起きるかを、業種別の損失と2010年の教訓から見つめました。
ここまでは、たしかに、少し重い話が続きました。けれど、本当に伝えたかったのは、ここからの後半です。後半は、一転して『希望』と『打ち手』の旅になりました。
この前半の四話は、いわば『現実を直視する』時間でした。目をそむけたくなるような話も、ありました。けれど、医者が病気を治すために、まず正確に診断するように、打ち手を考えるには、まず現実を正しく知らなければなりません。前半の重さは、後半の希望のための、大切な土台だったのです。
・ 第5話では、私たちの足元に、世界有数の『都市鉱山』が眠っていることを知りました。
・ 第6話では、その眠れる宝を起こす『回収技術』が、日本に豊富にそろっていることを見ました。
・ 第7話では、海の底、南鳥島の『国産資源』という、大きな希望に出会いました。
・ 第8話では、オーストラリアやアメリカといった『友好国』と組む、現実的な道を見ました。
・ 第9話では、国や大企業だけでなく、一社一社が『自社診断』で足元を固められることを確かめました。
・ そして第10話で、これらすべてを一枚の『2030年の地図』に並べ、未来を展望しました。
後半の旅で、私がいちばんお伝えしたかったのは、『日本は、決して丸腰ではない』ということでした。資源を持たない国だと言われ続けてきた日本が、実は足元にも、海の底にも、そして長年培った技術の中にも、たくさんの宝を持っている。前半で感じた不安は、後半を読み進めるうちに、少しずつ、頼もしさに変わっていったのではないでしょうか。
こうして並べてみると、この連載が、暗い話から明るい話へと、はっきり流れていたことが分かります。前半でもろさを正直に見つめたのは、後半の希望を、地に足のついたものにするためでした。問題を直視するからこそ、本物の打ち手が見えてくる。それが、この10話の旅の、隠れた骨格だったのです。
もう一つ、振り返って思うのは、すべての話が、どこかでつながっていた、ということです。第1話の『分けにくさ』は、第6話のリサイクルでも、第7話の海底資源でも、形を変えて顔を出しました。第2話の『精製が急所』は、最後の2030年の地図まで、ずっと物語の芯にありました。点に見えた一つひとつの話が、振り返れば、一本の線でつながっている。それが、連載というものの面白さだと思います。
これは、不安を煽る物語ではありませんでした
改めて、強くお伝えします。この連載は、『日本は危ない』『もう手遅れだ』と、不安を煽るための物語ではありませんでした。
第9話で、こうお話ししました。『漠然とした不安は、正体が分からないからこそ大きくなる。見える化すれば、不安は、対処できる課題に変わる』。これは、連載全体を貫く、いちばん大切なメッセージでした。
レアアースの問題も、まったく同じです。『なんとなく、中国に握られていて怖い』。その漠然とした不安の正体を、私たちは10話かけて、一つずつ明らかにしてきました。何が急所で、何が起きうるか。そして、何ができるのか。正体が分かれば、それはもう、ただ怖いだけの存在ではありません。冷静に向き合い、手を打てる『課題』に変わります。
世の中には、不安をかき立てる情報があふれています。『日本のものづくりは終わる』『中国に支配される』。そうした言葉は刺激的で、つい目を引きます。けれど、立ち止まって、正体を一つずつ確かめてみれば、たいていの不安は、思っていたほど得体の知れないものではありません。知ることは、不安に飲み込まれないための、いちばんの薬です。この連載が、その薬の、ささやかな一服になっていれば嬉しく思います。
そして、私たちには、打てる手が、こんなにもたくさんありました。
・ 足元の都市鉱山から、資源を取り戻すリサイクルがあります。
・ それを支える、世界トップ級の回収・分離の技術があります。
・ 海の底には、国産資源という、大きな希望が芽吹いています。
・ 信頼で結ばれた、友好国という仲間がいます。
・ そして、一社一社が、今日から始められる、足元の備えがあります。
これだけの手札を持っているのです。だから、悲観する必要は、まったくありません。むしろ、課題がはっきり見えたいまこそ、前を向くときです。この連載が伝えたかったのは、『心配しなさい』ではなく、『大丈夫、打つ手はあります。一緒に備えていきましょう』という、前向きなメッセージだったのです。
少し、私自身の話をさせてください。コンサルタントとして多くの製造業の現場に入りますが、最初に必ずお伝えするのは、『大丈夫です、一緒に考えましょう』という言葉です。経営者の方は、たいてい、漠然とした不安を一人で抱えていらっしゃる。その不安を、一緒にテーブルの上に広げて、見える形にする。すると、表情が変わります。『なんだ、やれることがあるじゃないか』と。この連載で私がやりたかったのも、まさにそれでした。画面の向こうのあなたと、不安をテーブルに広げ、一緒に打ち手を並べる。その作業だったのです。
もちろん、楽観だけを並べるつもりはありません。第7話や第8話で正直にお話ししたように、課題は、まだたくさん残っています。国産資源は道半ばですし、精製の急所は、すぐには取り戻せません。コストも、時間もかかります。それでも、私が『希望の物語だ』と言い切れるのは、課題が見えていて、そこに向かう道筋も見えているからです。見えない不安と、見えている課題は、まったく違います。後者には、必ず、近づいていけるのです。
あらためて、あの問いに答える
さて、いよいよ、あの問いに戻ります。『あなたのモーターは、あと何個つくれますか』。
【エピローグ_図表
P2ページ「あの問いへの、答え」参照】
プロローグの時点では、この問いへの答えは、どこか心もとないものでした。『さあ……中国の蛇口が締まれば、止まってしまうかもしれない』。自分では答えを握れない、他人任せの不安。それが、出発点での答えでした。
では、10話の旅を終えたいま、答えはどう変わったでしょうか。私は、こう答えたいと思います。『あなた次第で、もっとつくれます』と。
なぜなら、もう私たちは、答えを他人任せにしなくてよいからです。調達を分散しておけば、一つの蛇口が締まっても、別の蛇口から水が来ます。リサイクルで資源を取り戻せば、新たに掘らなくても、つくり続けられます。使う量を減らす設計に変えておけば、そもそも急所への依存が小さくなります。自社の急所を見える化しておけば、いざというときに、誰よりも速く動けます。
『あと何個つくれますか』。その答えは、もはや中国の蛇口だけが決めるのではありません。あなたの会社が、どれだけ備えてきたか。何本の足で立っているか。それによって、答えは大きく変わります。受け身の不安だった問いが、自分の手で答えを変えられる問いになる。これこそが、10話の旅で手に入れた、いちばん大きな変化だと思います。
考えてみれば、これは人生の多くのことと、同じかもしれません。漠然と『この先どうなるんだろう』と不安に思っているうちは、足がすくみます。けれど、何が起こりうるかを具体的に知り、できる備えを一つずつしていけば、不思議と落ち着いてきます。未来が完全に読めなくても、『どう転んでも、なんとかやっていける』という構えさえあれば、人は前を向けます。レアアースの話も、結局はそういう、ごく当たり前の、生き方の話だったのかもしれません。
そして、この『答えを変えられる』という感覚は、一社だけのものではありません。一社一社が備えれば、その集まりである日本全体のものづくりが、強くなります。あなたの会社の一歩が、取引先を支え、業界を支え、巡り巡って、日本の供給網全体を、少しだけ丈夫にする。第9話で『小さな一社の備えが、大きな絵の確かな一部』とお話ししたのは、このことでした。あなたの答えは、あなただけのものではないのです。
念のため、付け加えます。『もっとつくれる』というのは、何もしなくても大丈夫、という意味では、もちろんありません。備えた分だけ、つくれる。動いた分だけ、答えが増える。希望は、待っていれば訪れるものではなく、自分の手で手繰り寄せるものです。けれど、手繰り寄せられる、という確かな手応えがある。それが、出発点との、決定的な違いなのです。
たとえば、こんな会社を思い浮かべてみてください。レアアースのことなど、これまで気にも留めていなかった、小さな部品メーカー。あるとき、こうした話に触れて、試しに主要な製品を三つ、棚卸ししてみた。すると、一つの製品が、中国一国に大きく頼っていることに気づいた。そこで、在庫を少し厚めにし、別の調達先を一つ、探し始めた。たったそれだけのことで、その会社の『あと何個つくれますか』への答えは、確実に増えました。特別なことは、何もしていません。気づいて、小さく動いた。それだけで、未来は変わるのです。
不確実な時代の、ものづくりの心構え
最後に、この連載でずっとお伝えしてきたことを、これからの『心構え』として、五つにまとめておきたいと思います。レアアースに限らず、不確実な時代のものづくり全体に通じる話だと思っています。
少し、たとえ話をさせてください。一本の木は、強い風が吹けば、倒れてしまうかもしれません。けれど、根を深く広く張り、しなやかにしなる木は、嵐が来ても、折れずにやり過ごします。これからのものづくりに必要なのも、この『深い根』と『しなやかさ』です。次の五つは、そのための、根の張り方のようなものだと思って読んでいただけたら嬉しいです。
【エピローグ_図表
P3ページ「不確実な時代の、五つの心構え」参照】
第一に、『一本足では危うい。何本もの足で立つ』。連載の合言葉でした。一つの調達先、一つの技術、一つの国に頼り切らない。リサイクル・国産・友好国、そして省・脱レアアースの技術。何本もの足があれば、一本がぐらついても、倒れません。これは、レアアースに限らず、あらゆる経営のリスク管理に通じる、普遍の知恵だと思います。
第二に、『デリスキングであって、脱・中国ではない』。私たちが目指すのは、誰かを敵視し、切り離すことではありません。一つの相手に頼りすぎる状態を直し、いざというときの選択肢を持っておくこと。中国とも、これまでどおり付き合えばよいのです。大切なのは、賢く、しなやかに距離をとること。誰かを悪者にしない、この姿勢を、私は大事にしたいと思っています。
第三に、『循環は、もう後戻りしない大きな流れ』。掘って、使って、捨てる。その一方通行の時代は終わりつつあります。掘って、使って、また資源に戻す。この循環の発想は、経済安全保障の面でも、環境の面でも、これからの当たり前になります。ものを大切にする日本の文化と、世界最高水準の技術。これを掛け合わせれば、日本は循環の時代の主役になれます。
第四に、『外圧は、構造改革の触媒になる』。2010年も、2025年も、規制という外圧は、たしかに痛みをもたらしました。けれど、その痛みがあったからこそ、日本はリサイクルや代替技術、友好国との連携を、本気で進めてきました。ピンチは、見方を変えれば、構造を変える好機です。この前向きな捉え方こそ、苦しい局面を乗り越える力になります。
そして第五に、『最後は、人』。第10話の結びでも触れましたが、分ける技術も、循環の仕組みも、信頼関係も、それを担うのは、結局のところ現場の一人ひとりです。資源は買えても、人と技術は、一朝一夕には買えません。レアアースという地下資源の話をたどっていくと、最後は『人』という、いちばん身近で、いちばん確かな資源に行き着く。私は、これが何より希望だと感じています。
一本足ではなく、何本もの足で。敵視ではなく、しなやかに。一方通行ではなく、循環で。ピンチを好機に。そして、最後は人を信じて。この五つを心に置いておけば、未来がどのシナリオに転んでも、ものづくりは続いていけます。完璧を待つ必要はありません。小さく、早く、一人で抱えずに。今日できる一歩から、始めればよいのです。
この五つに、優劣はありません。どれも、互いを支え合っています。何本もの足で立つから、しなやかに動ける。循環を回すから、足が増える。信頼があるから、仲間と組める。外圧を好機と捉えるから、前に進める。そして、それらすべてを動かすのが、人です。ばらばらの教訓ではなく、一つの生き方として、心に置いていただけたらと思います。
少し大きな話に聞こえるかもしれませんが、ものづくりは、その国の文化そのものだと、私は思っています。良いものを、まじめに、丁寧につくる。約束を守り、品質に妥協しない。その積み重ねが、信頼を生み、技術を継ぎ、人を育ててきました。レアアースという素材の話は、つきつめれば、この『ものづくりの誇り』を、これからも守り、つないでいけるか、という話でもあります。私は、守れると信じています。守る価値が、十分にあると思っています。
そして、これらは、特別な大企業だけができることではありません。むしろ、小回りのきく中小企業や、現場の一人ひとりにこそ、実践しやすいものばかりです。明日、朝礼で『うちの急所は、どこだろう』と問いかけてみる。それだけでも、立派な第一歩です。心構えは、大上段に構えるものではなく、日々の小さな問いかけの中に、宿っていくのだと思います。
レアアースが、教えてくれたこと
この連載を書き終えようとしているいま、しみじみ思うことがあります。レアアースという小さな素材は、実は、とても大きなことを教えてくれていた、ということです。
一つの相手に頼りすぎることの危うさ。何本もの足で立つことの強さ。捨てていたものを、資源として活かす知恵。遠くの誰かと、信頼で結ばれることの心強さ。そして、どんな技術も、最後は人が支えているという事実。これらはどれも、レアアースに限った話ではありません。会社の経営にも、暮らしにも、生き方にも通じる、普遍的な教えだと思います。
資源を持たない国だからこそ、日本は、これらの知恵を、誰よりも深く学んできました。足りないからこそ、工夫する。奪われそうになるからこそ、分け合い、循環させ、信頼を育てる。レアアースのもろさは、見方を変えれば、日本を強くしてきた『先生』だったのかもしれません。ピンチを糧に変えてきた、この国の底力を、私は心から誇りに思います。
私は、レアアースの問題を、悲観的に語る論調を、たくさん目にしてきました。『日本はもう中国に勝てない』『脱中国は不可能だ』。たしかに、一面の事実ではあります。けれど、それだけを見て立ちすくむのは、もったいない。完全に勝つ必要も、完全に脱する必要も、ありません。賢く付き合い、しなやかに備え、できることを一つずつ積み重ねる。それで、十分に道は拓けます。勝ち負けの物語ではなく、続けていく物語。私は、そう捉えたいと思います。
そして、もう一つ。レアアースの旅は、私に『つながり』の大切さを、改めて教えてくれました。一社では解けない問題も、取引先と、業界と、友好国と、研究者と、つながれば解けていく。動脈産業と静脈産業がつながり、国と国がつながり、人と人がつながる。孤立しては、強くなれません。つながってこそ、しなやかになれる。資源の話のはずが、最後は、人と人とのつながりの話になっていました。それが、私にはとても、希望に満ちたことに思えるのです。
おわりに ここまでの旅に、心から感謝を
長い連載に、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。レアアースという、ふだんはあまり光の当たらない素材をめぐって、ずいぶん遠くまで、ご一緒に歩いてきました。専門的な話も多かったと思いますが、ここまで読んでくださったこと、心から感謝します。
私がこの連載を通じてお伝えしたかったのは、突き詰めれば、たった一つのことでした。『正しく知れば、必要以上に恐れることはない。そして、私たちには、打てる手がたくさんある』。これだけです。レアアースの問題は、たしかに簡単ではありません。けれど、絶望するような話でも、決してありません。日本には、これに立ち向かうための知恵と、技術と、仲間と、そして人がそろっています。
この連載が、どこかの誰かの、小さな一歩のきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。引き出しのスマホを、リサイクルに出してみる。自社の製品を、一つだけ棚卸ししてみる。取引先に、調達先を一度尋ねてみる。どんなに小さくても、その一歩は、確かに未来の地図を書き換えていきます。完璧でなくていい。まず、一歩。それで、十分です。
私自身、前職の大手ケミカルHDで素材とものづくりに長く携わり、2014年11月に独立して株式会社DCTAを始めてからは、国内外の現場で、この資源の問題に向き合い続けてきました。現場を歩けば歩くほど、強く感じます。日本のものづくりは、まだまだ強い。しなやかに、したたかに、これからも世界の中で輝いていける。その底力を、私は信じています。
そして、その底力は、大企業や研究者だけのものではありません。町工場の職人さんも、中小企業の経営者も、現場で汗を流す一人ひとりも、みんながその担い手です。この文章を読んでくださっているあなたも、間違いなく、その一人です。日本のものづくりの未来は、誰か特別な人がつくるのではなく、こうして関心を持ち、学び、一歩を踏み出す、あなたのような方々が、つくっていくのだと思います。
振り返れば、10話と、このエピローグ。短いようで、長い旅でした。書きながら、私自身も多くのことを学び直し、整理することができました。読んでくださったあなたと、同じ景色を見ながら歩いてこられたこと。それが、書き手としての、何よりの幸せです。
この連載は、これで完結します。けれど、レアアースをめぐる物語そのものは、これからも続いていきます。2030年に向けて、地図はまだまだ描き換えられていく。その続きを描くのは、ニュースの中の誰かではなく、現場に立つ私たち自身です。どうか、これからも、自分ごととして、関心を持ち続けてください。関心を持つ人が増えること。それ自体が、日本のものづくりを強くする、確かな力になります。
最後に、もう一度だけ、あの問いを。『あなたのモーターは、あと何個つくれますか』。その答えは、もう、不安の中にはありません。あなたの会社が、これから打っていく一手、一手の中にあります。備えれば備えるほど、答えは増えていく。あなたのモーターは、まだまだ、何個でもつくれます。そう、自信を持って言える日本のものづくりを、ご一緒につくっていけたら。これ以上の喜びはありません。
レアアースという、小さくて、けれど大切な素材をめぐる、長い物語。その締めくくりに、もう一度だけ申し上げます。心配は、いりません。私たちには、知恵があり、技術があり、仲間がいて、そして、ものづくりへの誇りがあります。あとは、前を向いて、一歩ずつ。それだけで、道は続いていきます。
ここまで、本当にありがとうございました。またどこかの現場で、お目にかかれますように。
◆著者プロフィール
畠山 達彦 株式会社DCTA 代表取締役
大手ケミカルHDの事業会社にて機能性樹脂事業の責任者を務め、素材開発・加工技術・工場設計・生産管理に至るバリューチェーン全体の意思決定を担う。30カ国以上の事業運営を統括した後、2014年11月に独立し株式会社DCTAを設立。製造業の環境規制対応(PFAS・EU CRA等)、IoT/AI/デジタルツインを活用したスマートファクトリー構築、アジアでの資源循環ビジネス開発を中心としたコンサルティングを展開。湘南・横浜を拠点に、東南アジア・中東・インド・欧州・米国で活動中。NewsPicks EXPERT AWARD ベストフラッシュオピニオン賞2024/2025年連続受賞。
会社URL https://www.dctainc.com/
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