脱ナフサ時代の製造業生存戦略【Prologue】脱ナフサ時代の製造業生存戦略

素材・リサイクル・エネルギーを三位一体で設計する
〜ホルムズ封鎖が教えてくれた「次の産業革命」の地図〜

はじめに 湘南の朝に見えた貨物船から

湘南の海岸を朝歩いていると、波の向こうに、貨物船が見えます。横浜港のほうから、東京湾を出ていく船です。あの船の腹のなかに、どれくらいの原料が積まれていて、それが日本のどの工場にどう運ばれていくのか。三十数年、製造業の現場を歩いてきた者として、つい想像してしまいます。

わたくしたち日本の製造業が、これほどまでに「原料の出どころ」を意識せざるを得なくなった時代を、わたくしは記憶していません。1970年代のオイルショックも、2011年の震災後の電力危機も、2022年からのウクライナ問題によるエネルギー高騰も、それぞれに大きな試練でした。しかし2026年2月28日に始まった今回の出来事は、それらとは少し性格が違うように、現場で見ている者には感じられます。

米国とイスラエルがイランを攻撃したあの日から、ホルムズ海峡を通るタンカーが目に見えて減りました。日本のナフサ価格はわずか2週間で60%以上跳ね上がり、三菱ケミカルが国内のエチレン設備の生産能力削減を始めました。「あと20日分しか民間在庫がない」「国家備蓄の対象にナフサは入っていなかった」という事実が、ようやく一般のニュースでも取り上げられるようになりました。

わたくしは前回の連載「ナフサ・ショック 石油依存産業の終わりの始まり」で、この急所を全10話+エピローグにわたって解剖いたしました。続く「リサイクルの真実」「再生可能エネルギーと製造業」では、それぞれ「集めた後の循環」「工場の電気の選択肢」という、別の角度から日本の製造業の足元を掘り直しました。

そして今、四本目の連載をはじめさせていただきます。これら三本の連載で扱った「素材」「リサイクル」「エネルギー」を、現場で同時に走らせる設計図として描き直したい。それが今回の「脱ナフサ時代の製造業生存戦略」です。

Prologueでは、まずなぜ今この三つを同時に考える必要があるのか、その背景を腰を据えてお話しさせてください。ボリュームのある書きっぷりになりますが、これからの全10話+Epilogueの全体地図を、ここでまとめて共有しておきたいのです。

※ 三本の過去連載(ナフサ・ショック/リサイクルの真実/再生可能エネルギーと製造業)が、今回の統合連載に集約される構図を示します。

2026年2月28日という日付の重さ

ホルムズ海峡で起きた「静かな封鎖」

2026年2月28日、米国とイスラエル政府はイランへの大規模な軍事攻撃を開始しました。物理的にホルムズ海峡を封鎖する宣言が出されたわけではありません。けれども実態としては、ほとんど機能停止に近い状況がいまも続いています。

封鎖を成立させているのは、軍艦ではなく保険会社です。大手の海上保険会社が戦争リスク保険の引き受けを停止したことで、保険のかかっていないタンカーは事実上ホルムズ海峡を通ることができません。船主と保険会社のあいだに走る「経済的な封鎖」が、物理的な封鎖よりも厄介な性質を持っていることが、いま現場で確かめられています。

数字で見ると、その重さがいっそう際立ちます。

•      日本の輸入ナフサのうち、中東からが約74%。実態としてはほぼ8割が中東依存
•      日本のナフサは国家備蓄の対象外で、民間在庫はおおむね20日分
•      アジア向けナフサ価格は、攻撃開始以降で約60%高騰(1トンあたり600ドル台後半から1,100ドル前後へ)
•      ペルシャ湾には数十隻のタンカーが取り残され、合計で少なくとも210億リットルの石油が戦火のなかに置かれている
•      化学製品メーカーから直接・間接にナフサ系製品を仕入れる日本の製造業は、約4万7,000社

「燃料費が少し上がる」という話ではないことが、これらの数字からおわかりいただけると思います。プラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料、医薬品、そのほぼすべての出発点である原料の供給が、ぐらつき始めているのです。

「あと20日分」が意味すること

民間在庫20日分という数字を、もう少し噛みくだいて考えさせてください。

ナフサは、原油を蒸留したときに最初に出てくる軽質留分です。そこからエチレン・プロピレン・ベンゼン・トルエン・キシレンといった基礎化学品が作られ、さらにポリエチレン・ポリプロピレンといった樹脂、合成繊維、塗料、医薬品の中間体へと枝分かれしていきます。川上の蛇口がとまれば、川中・川下の工場は、いずれ動けなくなります。

20日分というのは、エチレン製造設備(クラッカー)が無理なく回せる「在庫の下限」に近い数字です。下限を割り込むと、装置の運転温度を下げざるを得なくなり、製造効率が落ちる。落ちた分の原料はさらに必要になる。負のループに入ります。三菱ケミカルがすでに国内のエチレン設備の生産能力削減に動いたのは、このループに入りかけている兆候を読み取ってのことだと、現場の感覚としては受け止めています。

ここで、わたくしの古巣である大手ケミカルHDでの経験を、ひとつだけお話しさせてください。在庫管理担当者から「あと何日分か」と尋ねられたとき、現場が真っ青になる数字というものが業種ごとにあります。化学プラントの場合、それはおおむね15〜20日分です。理由はシンプルで、それを下回ると、装置を一度止めて、再起動させなければならない局面が見えてくるからです。一度止めた化学プラントの再起動には、数日〜数週間、巨額のコストがかかります。

「あと20日分」は、平時の在庫水準ではなく、戦時の最低警戒水位なのです。

国家備蓄の対象外、という構造の盲点

もう一つ、現場視点で気になる点を申し上げます。日本のエネルギー備蓄制度は、原油・石油製品については世界でもかなり厚い水準が整っています。国家備蓄と民間備蓄を合計するとおよそ240日分。だからホルムズ封鎖でも、ガソリンや軽油の供給はある程度の時間は耐えられます。

ところが、ナフサは「燃料」ではなく「原料」とみなされているため、この国家備蓄の対象から外れています。原料の用途で輸入されるナフサに対しては、民間企業が自社の都合で在庫を持つだけ、というのが2026年5月時点の制度の姿です。

これは、長らく「ナフサは安く、いつでも買える」という前提があったからこその制度設計です。1970年代のオイルショック後も、ナフサそのものの供給リスクが大きく議論されたわけではありませんでした。むしろ「ナフサ価格が下がる方が、日本の競争力が高まる」という暗黙の前提のもと、価格交渉のメカニズム(国産ナフサ価格制度など)が組み上がってきました。

その「いつでも買える」が、2026年に音を立てて崩れた、ということです。

信越化学に学ぶ「もうひとつの選択肢」

一方で、まったく違う風景を見せている会社もあります。信越化学工業です。

信越化学は塩ビ事業の主力を米国に置き、現地のエタンを原料にしてエチレンを作っています。エタンは米国シェールガスの随伴ガスとして潤沢に出てくる原料で、ホルムズ海峡とは無関係に動いています。ナフサ価格が高騰するほど、ナフサクラッカーで作られる石油化学製品との価格差が広がり、信越化学の利益率はむしろ拡大していく構造を持っています。

「原料が違う」というたった一点の差が、これだけ大きな差を生むのです。経営判断の歴史というのは、本当に怖いと感じます。シェール革命がはじまった2010年前後、米国エタンへの設備投資を決めた経営陣の意思決定が、15年の時を経て、この2026年の難局を「逆風」ではなく「追い風」に変えています。

※ ナフサクラッカー企業と信越化学(米国エタン)を5つの論点で対照させた比較表です。原料を変えるという一点の差が、危機を追い風に変えた構図を可視化しています。

三つの脆弱性が同時に露出した

脆弱性1 ナフサ95%依存という素材インフラ

ホルムズ封鎖の本当の怖さは、ナフサ価格高騰そのものではありません。日本の化学産業が「ナフサ一本足打法」だったことを世界に晒してしまった、その事実です。

国別の原料構成を見ると、地殻のような違いがわかります。

•      日本:エチレン原料の約95%がナフサ
•      米国:シェールガス由来のエタンが主流(エチレン原料の70%超)
•      中国:石炭由来のMTO(メタノール to オレフィン)を急拡大、ナフサ・エタンとの混合運用
•      欧州:北海ガス由来のガスクラッカーとナフサクラッカーの並列運用

世界の主要産業国のなかで、日本だけが、原料の選択肢を「ナフサ一択」に絞り込んでいるのです。これは戦略の失敗というよりは、過去の最適化の累積結果と申し上げたほうが、現場感覚としてはしっくり来ます。日本の石油化学コンビナートはナフサクラッカーに最適化されており、製造現場の運用ノウハウもナフサ前提で蓄積されてきました。それは戦後の日本のものづくりを世界一にまで引き上げた「最適化の力」でもありました。

ただ、最適化が深まるほど、変化への適応コストが高くなる。これは現場を歩いてきた人間として、何度も目にしてきた逆説です。

脆弱性2 「リサイクル率72%」という数字の見かけ倒し

脱ナフサに向けた、もっとも有力な解の一つが、廃プラスチックを原料に戻すケミカルリサイクルです。先進国のなかで日本は「リサイクル率72%」を誇ってきましたが、この数字の中身を冷静に見ると、見かけ倒しの部分があります。

わたくしは前回の連載「リサイクルの真実」全12回で、この点を腰を据えて掘り下げました。要点を改めて申し上げると、72%のうちおよそ半分以上は「サーマルリサイクル」、つまり廃プラを燃やして熱回収する方法です。EUの定義では、これはリサイクルにカウントされません。マテリアルリサイクル(再生材として再利用)とケミカルリサイクル(原料に戻す)を合わせると、日本の実質的なリサイクル率はおよそ25%前後。先進国の平均より、明らかに低い水準です。

特にケミカルリサイクルの実装は、欧米と比べて大きく遅れています。

•      欧州:BASF・ENI・SABICが商業規模のケミカルリサイクル工場を稼働、2030年までに数百万トン規模を計画
•      米国:ExxonMobil・Eastman・LyondellBasellが数千億円規模の投資を発表、テキサスを中心に大型化
•      日本:ENEOS・出光・三菱ケミカル・住友化学・レゾナックなどが実証段階。商業規模は2027年以降にずれ込みつつある

ホルムズ封鎖が突きつけたのは、「リサイクル材料こそ、ナフサ代替の最有力候補」という認識です。それなのに、その担い手の整備で日本は明らかに遅れている。これが二つ目の脆弱性です。

脆弱性3 G7最低水準の再エネ比率

三つ目の脆弱性は、エネルギー側です。製造業の脱炭素は、究極的には「工場の電気をどうグリーンにするか」という問いに収れんします。グリーン水素もグリーンアンモニアも、もとを正せば再エネ電力です。そして日本の再エネ比率は、G7のなかで最低水準にあります。

•      ドイツ:電源構成のおよそ55%が再エネ(2025年実績)
•      英国:洋上風力中心におよそ45%
•      フランス:原子力+再エネで脱炭素電源比率が90%超
•      米国:州ごとに差が大きいが、テキサスは風力比率が25%超
•      日本:再エネ比率はようやく25%付近

日本の再エネ普及の遅れには、構造的な理由があります。系統制約、土地制約、コスト構造、そして再エネ賦課金をめぐる議論の停滞。どれも単独で解決できる話ではなく、政策・技術・国民の理解が同時に動かなければなりません。

わたくしは「再生可能エネルギーと製造業」連載でこのテーマを腰を据えて取り上げ、エピローグまで走らせていただきました。連載のなかで申し上げたのは、製造業の現場としての結論はシンプルだということです。「再エネが間欠的だから使えない」のではなく、「使えるように工場側のエネルギー設計を変える」しか、もう道はないのです。

三つの脆弱性は別々の問題ではなかった

ここまで素材・リサイクル・エネルギーの三つを別々の章として書きました。けれども現場で見ていると、これら三つは別々の問題ではないことが、しだいに見えてきます。

ナフサ依存を減らすには、ケミカルリサイクル(リサイクル)かバイオナフサ(エネルギー由来の代替原料)が必要です。ケミカルリサイクルを商業規模で動かすには、膨大な電力が要ります。その電力を化石燃料由来でまかなえば、せっかくの脱ナフサが、別の脱炭素課題を生んでしまう。再エネ電力を工場で安定的に使うには、新しい素材(高効率な蓄電池、高性能な変換装置)が要ります。

素材・リサイクル・エネルギー。この三つは、ぐるぐる回るひとつの円なのです。

※ 素材・循環・電源の三つを三角形に配置し、相互の依存関係を矢印と注釈で示した連動図。本連載のコンセプトを象徴する一枚です。

わたくしがこの連載のタイトルに「三位一体」という言葉を入れさせていただいたのは、まさにこの感覚を共有したかったからです。三つを別々に追いかけている限り、どれも本当の意味では前に進まない。これが、30カ国の製造業現場を歩いてきた者としての、いまの率直な見立てです。

危機を「設計図の書き直し」として読む

オイルショックのときと、何が違うのか

「今回もオイルショックと同じで、のどもと過ぎれば忘れるのではないか」というご意見を、よく頂戴します。1970年代の二度のオイルショック後、日本は省エネ技術を磨き、産業のエネルギー効率を世界一にまで引き上げました。けれども、原料の脱石油という根本的な転換は、結局のところ実現しないまま、半世紀が経ちました。

「今回も同じ轍を踏むのではないか」というお声に、わたくしは「今回は違う」と申し上げたい。なぜならば、今回の危機は単一の要因では起きていないからです。

•      地政学リスク:ホルムズ海峡封鎖、米中対立、台湾海峡リスクの恒常化
•      規制圧力:CBAM、PPWR、EUDR、米国の通商規制、各国の脱炭素法制
•      顧客の要求:RE100、SBT、Scope3開示、サプライヤーへの再エネ電力使用要請
•      資本市場:気候関連財務情報開示(TCFD/IFRS-S2)、グリーンファイナンスの広がり
•      技術の成熟:ケミカルリサイクルの商業化、ペロブスカイト太陽電池、ヒートポンプの高温化

※ 1970年代オイルショック(動く軸が1本)と2026年ナフサショック(5本軸同時)を左右に並べた対比図。「のどもと過ぎれば」が通用しない理由を構造で示します。

これら五つは、それぞれ独立して動いている圧力です。1970年代のオイルショックは「原油価格」という一本の軸で説明できました。けれども2026年の今は、五本の軸が同時に動いています。一本の軸が緩んでも、ほかの軸が緩むわけではない。だから「のどもと過ぎれば」というふうには戻れないのです。

「危機」ではなく「設計図の書き直し」

わたくしはこの連載を、危機の恐怖を煽る連載にはしたくないと考えています。製造業の現場には、不安だけを増やしても役に立たない、という冷たい現実があります。明日の生産計画を組まなければならない、来週の出荷を間に合わせなければならない、来月の与信を確保しなければならない。現場には、毎日のミッションがあるのです。

だからこの連載では、危機を「設計図の書き直し」として読みたい。製造業の経営者・技術者・現場責任者が、「自分の工場でどこから手を付けるか」を考えるための、実務的な地図として書きたいのです。

ここで、わたくしが2014年11月に株式会社DCTAを起こすときに描いた、ひとつのスケッチを共有させてください。当時、大手ケミカルHDで30カ国以上の事業運営を統括し終えたあと、独立して何をやるかを考えていた時期です。そのとき、紙のうえに三つの単語を書きました。

素材、循環、デジタル

この三つを、製造業の現場で組み合わせ直す仕事をしたい。それが2014年11月の独立の動機でした。あれから11年余り経ちました。当時はまだ、ケミカルリサイクルもデジタルツインも、本当に実用化するかどうか、現場でも半信半疑のテーマでした。それが2026年、現実の生存戦略として真ん中に来ています。

時間というのは、ときに技術を成熟させ、ときに認識を成熟させます。2026年のホルムズ封鎖は、わたくしたちが11年前から議論してきたテーマを、「いつかやらなければならないこと」から「今日やらなければならないこと」に変えました。それは厳しい現実ですが、同時に「やる理由が揃った」という意味でもあります。

※ 原料・電気・市場の3つの問い(うちの原料はあと何年持つか/工場の電気は脱炭素できているか/顧客は5年後も同じ素材を求めているか)をカードで提示。第8話で深掘りする問いの先取りです。

わたくしがこの連載で目指すこと

正直に申し上げますと、わたくし一人の頭のなかには、答えはまだ全部はありません。30カ国を歩いてきた経験から「だいたいこの方向だろう」と言える地図のおおまかな線は引けますが、すべての細部まで自信を持って書けるわけではありません。

だからこの連載は、わたくしと読者のみなさまの「考え合い」の場にさせてください。各話のあとには、現場で動かれているみなさまからのコメントを心待ちにしております。「うちはこうしている」「ここは違うのではないか」「この技術はもう少し詳しく見たほうがいい」というお声が、わたくしの次の話の質を上げます。前回の連載でも、読者のみなさまの問いかけが、本論を何度も深掘りさせていただきました。今回も同じ気持ちで歩ませてください。

そのうえで、Prologueの結論として、この連載で取り組ませていただきたい問いを、はっきり申し上げます。

「ナフサ・リサイクル・エネルギー」を、製造業の現場で三位一体として設計し直すには、何から始めればよいのか。

この問いに、全10話+Epilogueをかけて、わたくしなりの応答を試みさせていただきます。

全10話+Epilogue 連載の全体地図

ここで、これから一緒に旅をする全11回の道のりを、おおまかに共有させてください。各話のタイトルと、その回で目指したいことを、ひとことずつ添えます。

※ 全11回(Prologue+第1〜10話+Epilogue)の連載構成一覧。各話のタイトル・主題・関連連載(前段)を表でまとめています。

第1話 石油文明の終わりのはじまり ナフサ依存の構造と「後継者」たち

エタン、バイオマス、廃プラ、CO2。石油化学の原料が多様化する世界地図を、世界の主要プレイヤーごとに整理します。前回連載「ナフサ・ショック」の続きの位置取りとして、原料代替の現実的な選択肢を技術・コスト・スケールで並べます。

第2話 リサイクルは「義務」から「産業」へ ケミカルリサイクルが変えるバリューチェーン

廃プラが「原料」になる時代の到来。日本・欧州・米国の技術競争の最前線と、東南アジアでの資源循環ビジネスの可能性。「リサイクルの真実」連載で深掘りした内容を、産業構造の視点から再編集します。

第3話 再エネ電力が「製造業の競争力」になる日 電力コストの地政学

電気代が安い地域に製造拠点を移す時代。グリーン水素・電化・PPAを組み合わせた工場のエネルギー設計を、実例を交えて紹介します。「再生可能エネルギーと製造業」連載のエッセンスを、工場設計の視点で凝縮します。

第4話 規制を「先読み」する企業だけが生き残る CBAM・EPR・EU規制の全体地図

サーキュラーエコノミー、カーボンプライシング、拡大生産者責任。欧州発の規制が、日本の製造業のサプライチェーンをどう変えるかを、輸出実務の視点でまとめます。

第5話 中国・インド・東南アジアの「脱ナフサ」戦略 アジアの製造業地図の塗り替え

中国のMTOプロセス、インドの精製能力拡大、東南アジアの再エネ転換。「ナフサがなくても動ける産業」を先に作る国が次の競争を制するという、わたくしのアジア現場での実感を交えて整理します。

第6話 「素材の再設計」が競争優位を生む バイオ素材・リサイクル素材・機能性素材の最前線

PFAS代替、バイオプラスチック、高機能リサイクル素材。製品設計段階から「脱ナフサ」を組み込む企業だけが、顧客に選ばれる時代の素材戦略を語ります。

第7話 スマートファクトリーとエネルギー管理 AIとIoTが製造業の脱炭素を加速する

デジタルツイン、エネルギーマネジメントシステム、AIによる原料最適化。製造プロセスの「効率化」と「脱炭素化」を同時に達成するためのデジタル活用論を、実装事例とともに整理します。

第8話 経営者が今すぐ問うべき3つの問い 「原料・エネルギー・市場」の再点検

「うちの原料は、あと何年持つか」「工場の電気は、脱炭素できているか」「顧客は、5年後も同じ素材を求めているか」。経営層が現場とすり合わせるべき問いを、診断シート形式で整理します。

第9話 日本の「静脈産業」を世界へ輸出する 資源循環ビジネスの国際展開論

日本が長年積み上げてきた廃棄物管理、リサイクル技術、分別インフラは、アジアに輸出できる「知財」です。インドネシア、ベトナム、バングラデシュでの実践から学んだ、成功と失敗の条件を共有します。

第10話 「脱ナフサ後」の製造業地図 2035年に向けた5つの転換シナリオ

原料転換、エネルギー転換、リサイクル産業化、規制先読み、静脈ビジネス国際化。五つのシナリオと、各シナリオで必要な準備を、時間軸付きで整理します。連載の集大成です。

Epilogue 「ホルムズ封鎖は、日本へのラブレターだった」

日本が直面している脆弱性は、見方を変えれば「日本が一番変わる理由を持っている」ということでもあります。危機を「設計図の書き直し」に変えられるか。連載の締めくくりに、ふたたび湘南の海から、日本のものづくりへの問いかけを綴ります。

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Prologueの結びに 現場の言葉として

湘南の朝のスケッチに戻って

冒頭で、湘南の海岸を朝歩く話をいたしました。あの貨物船を見ながら、わたくしはいつも、こんなことを考えています。

あの船が運んでいる原料は、たぶん中東のどこかから、いくつもの中継港を経て、横浜港に入ってきたのだろう。船員さんたちは、ホルムズ海峡をどんな気持ちで通ってきたのだろうか。あるいは、保険が下りずに、ペルシャ湾で動けずにいるタンカーの船員さんたちは、いま何を考えているのだろうか。

製造業の現場にも、現場と現場をつなぐ「あいだ」にも、人がいます。原料を作る人、運ぶ人、加工する人、使う人。わたくしたちが議論している「脱ナフサ」「リサイクル」「再エネ」は、すべて、その人たちの仕事を変えるという話です。だから現場目線を離れた抽象論にはしたくない。腰の低い書きっぷりを心がけたいのは、そのためです。

読者のみなさまにお願いしたいこと

この連載を読んでくださるみなさまに、ひとつだけお願いがございます。各話を読み終えたあと、ぜひコメントを書いていただきたいのです。

•      「うちの工場では、こうしている」という現場のリアル
•      「この技術は実際どうなっているのか」という追加の問い
•      「うちの業種では、こういう影響が出ている」という具体例

どれも、わたくしには大変ありがたいインプットになります。前回までの連載でも、読者のみなさまからのコメントが、本論を何度も深掘りさせていただきました。連載は、書き手だけのものではありません。読者のみなさまとの対話のなかで、はじめて「現場のための地図」になります。

はじめます

2026年2月28日に始まった世界の変化は、わたくしたち日本の製造業に、避けようのない問いを突きつけました。けれども問いが鋭ければ鋭いほど、それに応える設計図もまた、骨太なものになり得ます。

わたくしは30カ国を歩いてきましたが、世界中どこの製造業の現場でも、変化を受け止めて新しい設計図を描く力を見てきました。日本の現場には、その力があります。それを信じて、ここから10話+Epilogueの旅をはじめさせてください。

脱ナフサ時代の製造業生存戦略。素材・リサイクル・エネルギーを、三位一体で設計する。

次回、第1話では、「石油文明の終わりのはじまり ナフサ依存の構造と『後継者』たち」と題して、ナフサに代わる原料候補(エタン、バイオマス、廃プラ、CO2)を、世界の主要プレイヤーの動きとともに整理します。前回連載「ナフサ・ショック」で輪郭を描いた話を、ここで「後継者」の視点から、もう一段深掘りさせていただきます。

どうぞ最後までお付き合いください。湘南の海から、横浜の港から、そして30カ国の製造業の現場から、お届けします。

2026年5月 湘南・横浜にて

畠山 達彦 株式会社DCTA 代表取締役

引用文献・参考資料

•      国際環境NGOグリーンピース「日本はホルムズ海峡危機に最も脆弱──化石燃料依存とナフサ不足が示す再エネ転換の重要性」2026年
•      JBpress(宮前耕也、SMBC日興証券)「ホルムズ海峡封鎖の悪影響はこれから始まる」2026年
•      貿易ドットコム「ホルムズ海峡封鎖が日本に与える影響とは?」2026年
•      御津電子株式会社「ホルムズ海峡の封鎖によるナフサ高騰が製造業に与える影響」2026年
•      化学工業日報「ナフサ市況急騰 2週間で1トンあたり600ドル台後半から1,100ドル前後へ」2026年3月18日
•      帝国データバンク「ナフサ関連製造業の調達リスク影響調査」2026年
•      経済産業省「資源エネルギー白書」2025年版/2026年版
•      信越化学工業 統合報告書2025/決算説明資料
•      三菱ケミカルグループ プレスリリース「エチレン設備の生産能力削減について」2026年
•      BASF、ENI、SABICのケミカルリサイクル関連プレスリリース(2024〜2026年)
•      ExxonMobil、Eastman、LyondellBasellのケミカルリサイクル投資計画
•      欧州委員会 PPWR(包装・包装廃棄物規則)、CBAM(炭素国境調整メカニズム)関連資料
•      畠山達彦 過去連載「ナフサ・ショック 石油依存産業の終わりの始まり」全12回(note)
•      畠山達彦 過去連載「リサイクルの真実 日本・欧州・米国・東南アジア、4つの現場から問い直す」全12回(note)
•      畠山達彦 過去連載「再生可能エネルギーと製造業 建前を脱して本音で向き合う」全12回(note)

著者プロフィール

畠山 達彦 株式会社DCTA 代表取締役
大手ケミカルHDの事業会社にて機能性樹脂事業の責任者を務め、素材開発・加工技術・工場設計・生産管理に至るバリューチェーン全体の意思決定を担う。30カ国以上の事業運営を統括した後、2014年11月に独立し株式会社DCTAを設立。製造業の環境規制対応(PFAS・EU CRA等)、IoT/AI/デジタルツインを活用したスマートファクトリー構築、アジアでの資源循環ビジネス開発を中心としたコンサルティングを展開。湘南・横浜を拠点に、東南アジア・中東・インド・欧州・米国で活動中。NewsPicks EXPERT AWARD 2024 ベストフラッシュオピニオン賞2024/2025年連続受賞。CLOMA インドネシア協力WG リーダー。
会社URL https://www.dctainc.com/

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