リサイクルの真実 『日本・欧州・米国・東南アジア、4つの現場から問い直す』~「リサイクル率72%」の数字の裏側と、循環型産業に転換するための実践論~【第1話】リサイクルの「格付け」

〜メカニカル・ケミカル・サーマル、何が違うのか〜

Prologueでもお伝えしたとおり、日本のプラスチックリサイクル率72%という数字には、欧米とは異なる計算方法のからくりがあります。今回はその核心、「メカニカル」「ケミカル」「サーマル」という3種類のリサイクルの違いを、現場目線で整理していきたいと思います。

「燃やして熱を取るのもリサイクルではないですか」と、私もよく聞かれます。日本ではそのように位置づけられてきましたが、欧州では「リサイクル」と呼ばないルールが定着しています。なぜそうした違いが生まれたのか、技術・コスト・CO2削減効果の3つの軸で、できるだけ平らに棚卸ししていきます。

1. 3種類のリサイクル、まずは技術の中身から

1-1. メカニカルリサイクル 粉砕して、もう一度成形する

メカニカルリサイクル(マテリアルリサイクル、材料リサイクルとも呼ばれます)は、最も歴史が古く、最も身近なリサイクル方法です。回収した廃プラスチックを、洗浄、粉砕、溶融、ペレット化という工程で、再びプラスチック原料に戻します。

ペットボトルから繊維やシートを作る、廃ポリエチレンから再生袋を作る、といった用途が代表例です。私自身、前職の樹脂開発時代から、ペットボトル再生PETの繊維化技術には何度も関わってきました。技術としては成熟しており、設備投資も比較的小規模で済みます。

ただし、メカニカルリサイクルには大きな弱点があります。回収プラスチックの「品質」と「単一性」に強く依存することです。複数の樹脂が混ざった廃プラ、汚れの多い廃プラ、添加剤が異なる廃プラを混合すると、再生材の物性が大きく落ちます。

現場では、これを「カスケード問題」と呼びます。1回リサイクルするごとに品質が一段ずつ下がり、最終的には「もう何にも使えない再生材」になってしまうのです。

そのため、メカニカルリサイクルが本当に得意なのは、回収ルートが整理され、樹脂が単一に分けられている素材です。日本ではペットボトルがその代表で、回収率約93%、再生率も世界最高水準にあります。逆に、複合包装材、汚れた弁当容器、エンプラ系の混合廃プラなどは、メカニカルリサイクルでは扱いにくい領域です。

メカニカルリサイクルの特徴(現場感覚での整理)
■    技術成熟度:高い。設備投資も比較的小さく、中小事業者でも参入可能
■    適用範囲:単一樹脂・低汚染の廃プラに限定される
■    コスト:1kgあたり50〜120円程度で再生ペレット化が可能
  (品種・品質によって幅あり)
■    CO2削減効果:バージン材比で約1.5〜2.5kg-CO2/kgの削減効果
■    弱点:カスケード劣化、混合廃プラへの対応が困難

1-2. ケミカルリサイクル 分子レベルまで分解して、原料に戻す

ケミカルリサイクルは、廃プラスチックを化学的に分解し、ナフサや基礎化学品といった「原料」のレベルまで戻す技術です。前作「ナフサ・ショック」でも何度も登場した、いわば「ナフサの代替原料製造装置」と言えます。

代表的な手法は4つあります。
①油化(熱分解で液体燃料・ナフサ代替を取り出す)
②ガス化(高温でCO+H2の合成ガスにする)
③解重合(PETを再びテレフタル酸とエチレングリコールに戻すなど、特定樹脂に特化した分子分解)
④高炉還元材化(製鉄所の還元剤としてコークスの代替に使う)

日本でも、ENEOSの油化プロジェクト(川崎)、レゾナックの高炉還元材化(川崎)、三菱ケミカルとMura Technologyの油化(茨城・揖斐川)、住友化学のアクリル樹脂解重合(愛媛)など、大型プロジェクトが相次いで動き始めています。投資額は1拠点あたり数百億円規模です。

ケミカルリサイクルの最大の強みは、メカニカルリサイクルが苦手な「混合廃プラ」「複合材」「劣化した廃プラ」も処理できる点です。分子レベルまで分解してしまうので、入口での品質要求が低くて済みます。出口側も、できるのは新品同等のナフサや基礎化学品なので、カスケード劣化が起きません。

ケミカルリサイクルは、メカニカルリサイクルの「カスケード問題」を、原理的に解決できる技術です。だからこそ、世界中の化学メーカーが今、これに注目しています。

一方で、課題も明確です。エネルギー消費量が大きく、設備投資が桁違いに大きく、ナフサ価格や石油価格に対する経済合理性の壁が立ちはだかります。2026年時点では、ナフサ価格高騰がケミカルリサイクルに追い風となっていますが、油価が落ち着けば再び収益性の議論が戻ってくる、という構造的な脆弱性があります。

ケミカルリサイクルの特徴(現場感覚での整理)
■    技術成熟度:油化・ガス化はパイロット段階から商業化への過渡期
■    適用範囲:混合廃プラ、複合材、汚染廃プラまで幅広く対応可能
■    コスト:1kgあたり150〜300円規模、ナフサ価格との相対関係に依存
■    CO2削減効果:方式により幅広く、バージン材比で1〜3kg-CO2/kg程度
■    弱点:エネルギー消費が大きく、設備投資が大規模

1-3. サーマルリサイクル 燃やしてエネルギーを取り出す

サーマルリサイクルは、廃プラスチックを焼却し、その熱で発電や蒸気利用、温水供給などを行う方法です。日本ではこれを「リサイクル」の一種として数えるのが慣行ですが、欧州では「Energy Recovery(エネルギー回収)」と分類され、リサイクル統計には含めません。この差が、日欧のリサイクル率の見え方を大きく変えています。

サーマルリサイクルが日本で広く採用されてきた背景には、3つの事情があります。第1に、国土が狭く最終処分場の容量に制約がある。第2に、自治体清掃工場のインフラが全国に整っており、廃プラを既存の焼却施設で処理できる。第3に、廃プラの発熱量が高く、発電効率の改善に貢献してきた。

実際、日本のサーマルリサイクル率はプラスチック全体の約60%、量にして年間500万トン超に及びます。最新の自治体清掃工場では発電効率20%超を達成しており、CO2削減や化石燃料代替という面で、相応の役割を果たしてきたのは事実です。

ただし、欧州が「これはリサイクルではない」と整理した理由も、現場目線で考えれば理解できます。サーマルリサイクルは、素材としての循環を断ち切る行為だからです。1回燃やしてしまえば、その素材は二度と原料には戻りません。CO2は大気中に放出されます。「資源循環」という観点で見れば、これは循環ではなく「直線的な処分の効率化」に近い、という整理です。

サーマルリサイクルが悪いという話ではありません。役割はあります。ただ、それを「リサイクル」として72%の中に算入することで、本来取り組むべきマテリアル・ケミカルの強化が後回しになってきた、という構造的な問題はあると、私は感じています。

サーマルリサイクルの特徴(現場感覚での整理)
■    技術成熟度:完全に成熟した技術。全国の清掃工場で稼働中
■    適用範囲:ほぼすべての廃プラに適用可能
■    コスト:自治体焼却インフラを使えば追加コスト最小
■    CO2削減効果:化石燃料代替分のみ、素材循環としてはマイナス
■    欧州での扱い:「Energy Recovery」と分類され、
  リサイクル統計から除外

2. 3手法の比較 技術・コスト・CO2の3軸で並べてみる

ここで、3つのリサイクル手法を一枚の表に並べてみます。畠山個人の現場感覚での整理ですので、数字は目安としてご覧いただければと思います。

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この表を眺めていただくと、3手法それぞれに「得意領域」と「苦手領域」があることが分かります。リサイクル戦略は、どれか1つを正解とするのではなく、廃プラの性質、地域のインフラ、コスト制約に応じて、適切に使い分けることが大切です。

3. 同じ廃プラでも、計算方法で「リサイクル率」が変わる

3-1. 日本基準で見ると72%

日本のプラスチック循環利用協会が発表する「プラスチックリサイクル率」は、2024年実績で約87%(廃プラ排出量に対する有効利用率)、そのうち「リサイクル(マテリアル+ケミカル+サーマル)」が約72%という構成になっています。

内訳は概ね、マテリアルリサイクル25%前後、ケミカルリサイクル4%前後、サーマルリサイクル60%前後、未利用焼却・埋立13%前後です。サーマルが過半を占めることが、日本の特徴です。

3-2. 欧州基準(EU)で計算し直すと

EUの統計基準では、サーマルリサイクルは「Energy Recovery」として、リサイクル率の分子から除外されます。日本の数字をEU基準で計算し直すと、リサイクル率は概ね20〜25%の範囲に落ちます。EU平均の約40%、ドイツの約50%と比べると、見劣りする水準です。

これは、日本の数字が「嘘」だという話ではありません。それぞれの国の事情と歴史の中で、計算方法が分かれてきたという話です。ただ、グローバル基準でブランドオーナーから「リサイクル材使用率」を要求される時代に、この計算方法の差は、無視できない実務的な問題になります。

3-3. EU PPWR(包装・包装廃棄物規則)が突きつけるもの

2025年に発効したEUの包装・包装廃棄物規則(PPWR)は、2030年までに全包装材をリサイクル可能にし、再生プラスチック含有率を製品種別ごとに義務化する内容です。再生プラスチック含有率の算定対象は、当然「マテリアル+ケミカル」のみです。サーマルリサイクル由来は対象外です。

つまり、日本企業が欧州市場で包装材を販売しようとした場合、サーマルリサイクル由来は「再生プラ含有率0%」とカウントされてしまいます。これは輸出競争力に直結する話で、私のお客様の中にも、PPWR対応で頭を抱えていらっしゃる包装材メーカーが何社もいらっしゃいます。

「日本では72%」と言っていても、欧州市場では「再生プラ含有率としては数%」と評価される。この落差を、現場の人間として、率直に共有しておきたいと思います。

4. 「燃やして熱を取るのはリサイクルか」 欧州と日本の哲学の違い

4-1. 欧州の哲学:素材は素材として循環させる

欧州が「サーマルはリサイクルではない」と整理してきた背景には、サーキュラーエコノミーという考え方があります。素材は素材として循環させ、最後の最後にエネルギー回収に回す。エネルギー回収は「リサイクルできなかったものの最終手段」であって、最初から狙うものではない。これが欧州の基本姿勢です。

EU廃棄物枠組み指令には「廃棄物階層」という明確な優先順位があり、上から順に
①発生抑制(Prevention)
②再使用(Reuse)
③リサイクル(Recycling)
④その他回収(Other Recovery、サーマル含む)
⑤処分(Disposal)と並んでいます。
サーマルは「リサイクル」より一段下のカテゴリーに置かれています。

4-2. 日本の哲学:地域の最終処分場制約を踏まえた現実解

一方、日本がサーマルをリサイクルに含めてきた背景には、最終処分場の容量逼迫という、現実的な事情がありました。1990年代から2000年代にかけて、各地の最終処分場が満杯に近づき、廃プラの埋立をどう減らすかが切実な課題でした。焼却で減容化し、エネルギーも取り出せれば、二重の意味で合理的でした。

また、日本の自治体清掃工場の発電効率は世界最高水準で、最新施設では蒸気タービン発電と熱供給を組み合わせて高い総合効率を出しています。これを「ただの焼却」と片付けるのは、技術的な実態を見ていないとも言えます。

4-3. どちらが正しいか、ではなく、どう統合するか

私自身は、欧州が正しい、日本が間違いという二分法には立ちません。それぞれの国の事情の中で、合理的に組み立てられてきた仕組みです。

ただ、これからの方向性として、日本も「マテリアル+ケミカル」の比率を計画的に高めていく必要があることは、間違いありません。理由は3つあります。第1に、グローバルな再生プラ要求が「マテリアル+ケミカル」基準で動いている。第2に、ナフサショック以降、廃プラを「原料」として使う経済合理性が高まっている。第3に、サーマルだけではCO2削減シナリオに限界がある。

サーマルを否定する必要はありません。ただ、サーマルに依存しすぎず、マテリアル+ケミカルの比率を着実に上げていくこと。これが、これからの日本のリサイクル戦略の現実解だと、私は考えています。

5. 現場で何を考えるか 明日の判断につながる3つの視点

ここまで、3つのリサイクル手法と日欧の哲学差を見てきました。では、現場の経営者や技術者は、明日から何を考えればよいのでしょうか。3つの視点で整理します。

5-1. 自社の廃プラ・再生材の「中身」を確認する

まず、自社で扱っている廃プラ、あるいは購入している再生材が、どの手法由来なのかを確認することです。「再生プラ」と一括りに言っても、メカニカル由来、ケミカル由来、サーマル副産物由来では、技術特性も価格もCO2実績もまったく違います。

特に、欧州向け輸出品や、グローバルブランドオーナーへの納入を抱える企業は、「マテリアル+ケミカル」の証明書付きの再生材を、どう確保するかが急務になっています。サプライヤーとの会話の中で、「これはマテリアル由来ですか、サーマル由来ですか」を当たり前に聞くようになるべき時代です。

5-2. 自社製品の「リサイクル可能性」を再設計する

もう1つは、自社製品が「将来どのリサイクル手法に乗せられるか」を、設計段階から考えることです。複合材、多層フィルム、添加剤過多、印刷インキ多用、こうした設計はメカニカルリサイクルを困難にします。一方、単一樹脂化、易解体設計、リサイクル材使用前提の設計をすれば、製品の循環性は大きく高まります。

欧州ではこれを「Design for Recycling(DfR)」と呼び、PPWRの中でも要件化が進んでいます。日本企業も、製品開発の上流段階から、リサイクル可能性を組み込む発想が求められています。

5-3. 「サーマル一辺倒」からの脱却ロードマップを描く

自社の廃プラ処理が、現状ほぼサーマル100%になっている企業は、決して少なくありません。これ自体を否定する必要はありませんが、5年・10年の時間軸で、マテリアル+ケミカルの比率をどう上げていくかのロードマップを、今から描き始めることをお勧めします。

私のお客様で進めている例ですと、まず単一樹脂廃プラを社内で分別し、メカニカルリサイクル業者に直接渡すルートを作ります。次に、混合廃プラの一部を、ケミカルリサイクル事業者(国内のENEOS、レゾナック等)へ供給する契約を結びます。最後に、自社製品設計をDfRに切り替え、回収済み廃材を再生材として使う「クローズドループ」を組み立てます。3段階で5〜7年、というのが現実的な時間軸です。

おわりに 次回予告

第1話では、メカニカル・ケミカル・サーマルという3つのリサイクル手法の違いと、日欧のリサイクル率の見え方の差を整理しました。「日本のリサイクル率72%」の中身を、技術別に分解して見ていただいた格好です。
次回、第2話では、この日欧の差の「先頭を走っている欧州」のリサイクル戦略を、現場目線で深堀りします。EU PPWR(包装・包装廃棄物規則)、サーキュラーエコノミー行動計画、拡大生産者責任の実態。日本企業の輸出実務にどう影響するのか、欧州が本気でリサイクルに投資している背景は何なのか。私が欧州のお客様や規制当局のヒアリングで得た情報を交えながら、お伝えしていきたいと思います。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。

【著者プロフィール】

畠山 達彦(はたけやま たつひこ)
株式会社DCTA 代表取締役。2014年11月設立。湘南・横浜を拠点に、リサイクル/CO2削減/PFAS対策コンサルティング、IoT・AI・デジタルツインを活用したスマートファクトリー開発支援、環境改善・カーボンニュートラル支援の3本柱で、東南アジア・中東・インド・欧州・米国にて活動中。
前職は大手ケミカルHDにて、樹脂開発、工場設計、プラント運営、生産管理に従事し、30カ国以上の製造現場を歩いた。CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)廃プラスチック資源循環ワーキンググループでチームリーダーを務める。アフリカ資源循環に関する政府研究委託、NewsPicks EXPERT AWARDベストフラッシュオピニオン2年連続受賞(2024、2025)。
DCTA Inc. ウェブサイト:https://www.dctainc.com/
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